僕の先輩は変な人

放課後。にぎやかな教室を後にする。階段を降り、二年生の教室が見えたその瞬間。

「やあ。今日も一人で楽しそうだね、金星クン」

「僕の名前は東雲だと、何回言わせたら気が済むんですかね、先輩」

肩の上に先輩の顔が乗っていた。

先輩はJKだ。つまり年頃の男女が密着していることになる。それも毎日。そしてここは学校だ。そこまで言えばわかるだろう。

「今日も見られてるな」

「誰のせいだと

もはや風物詩である。考えてみれば当然の話だ。毎日同じ時間同じ場所に出現する仲のいい男女2人。高校生の興味をそそるのは自明の理だ。

「ふむ」

「どうしました?」

「えいっ」

「ちょ、先輩!?」

腕組んできやがったぞこの人。そんなことしたらどうなるか。案の定周囲からざわめきが起こる。

「何やってるんですか先輩!?」

「だめ?」

「こういう時だけ女の子ムーブするのズルくないですか?」

「私もそう思う」

言いながら観衆にピースとドヤ顔を向ける先輩。なぜか一眼レフが見えた。誰だよ。

「そう思うならやめましょうよ」

「ズルはしてなんぼなのだよ」

「話になりませんね」

「いやぁーたすけてー」

先輩を引きずりながら家路につく。しかしさっきの上目遣いはなかなか強烈だった。だって身長ひk

「誰がロリコンだって?」

「いやロリ体型ってほど小さくはえ?コン?」

先輩はロリコンらしい。それより心が読まれたのは気のせいだろうか。

「くっバレちまったなら仕方ない。私はショタコンだよ」

「今の会話にショタは出てきましたか?」

「そこにいるじゃないか」

ほら、と先輩が指差した先にはこちらをガン見している男の子がいた。それに気付いた母親(推定)が「邪魔しちゃダメよ」と言っている。そういえば腕組まれたままだった。まあいいか。そんなことより、だ。

「ショタがいてもショタコンだとバレることはなくないですか?」

「あぁ、あんな所に私の家が。今日も寄っていくかい?」

「ヨロコンデー」

先輩の家は意外にも大きい。代々受け継がれている屋敷とのことだ。ここに来るのは初めてではないが、何回見ても慣れるものではない。

「今日は何するんです?」

「遊ぶ」

「その内容を聞いてるんですよ」

「ああ、そっちか。今日はな、あれだ、母屋じゃなくて

「離れ?」

「そうそう、お蔵お蔵」

「そこは『離れ離れ』であって欲しかったです」

「はなればなれ、みたいだな」

「僕たちは近すぎると思います」

「気のせいだよ」

「さすがに無理があります」

「むー」

不満そうに先輩が離れていく。空気って冷たかったんだな。

「で、蔵に何かあるんですか?」

「ふっふっふ聞いて驚くなよ?」

先輩は悪そうな笑みを浮かべながら一呼吸置いた。しょうもないものだろうと思いながらも一応身構えると、こちらを指差して大きく叫ぶ。

「空っぽだ!」

「まあそんなことだろうとえ?」

「ん?Φの方が分かりやすかったか?」

「そういう話じゃないですよ」

しょうもないものじゃないが予想外ではあった。

「えーっと、何も入ってないなら何するんですか?」

先輩はきょとんとして言った。

「鬼ごっこだろ」

「空っぽの蔵で鬼ごっこするのは常識なんですね。僕の勉強不足でした」

なんでそんなこと聞くんだ?みたいな顔はやめてほしい。僕がおかしいみたいになってしまう。

いや、この空間は先輩のホームグラウンドだ。つまり先輩の価値観こそが正義であり、先輩が常識であると言ったらそれは常識なのだ。よって僕はおかしい。

「じゃあ私が鬼な」

「えっちょっまっ」

「1,2,3,・・・,8,9,10スタートォ!」

「集合ネタを引きずってらっしゃる!?」

クラウチングスタートを模したと思われるぎこちないフォームから一瞬で加速して僕のすぐ横を通り過ぎて行った。あれ?

「それは残像だ」

「嘘だろ?」

肩の上に先輩の小さな手が乗っていた。

「次は君が鬼だ」

「嘘だと言ってくれ

先輩は愉快に笑いながら駆けていった。一秒後には見えなくなった。

そんなこんなで追いかけること数時間。ようやく勝機を見出せた。

「あの蔵の話は、ヒントだったんですね!」

蔵の扉を開くと、そこには暗闇だけが広がっていた。本当に空っぽらしい。だが予想に反し、先輩の姿も見当たらない。奥の方にいるのかと思って足を踏み入れると、

「かかったな、金星クン!」

高らかな犯行声明と共に扉が閉まった。

「僕は東雲だと何度言ったらというか、これはどういうことですか?」

「え?鬼の捕獲」

「鬼ごっこってそんなシステムありましたっけ?」

「さっき思いついた」

「そんなことだろうと思いました」

「人を食う鬼と、それに抵抗する人間の戦い。いい話だろ?」

「ソウデスネ」

「まあ、君になら食われても

「え?」

「いや、何でもない」

とんでもないこと言われた気がするけど気のせいだろう。僕は走り回って疲れてるんだ。幻聴が聞こえてもおかしくはない。

「えーと、怖いか?」

「結構怖いですね。真っ暗なのもそうですけど、先輩も怖いです」

「私も自分の才能が恐ろしいよ。これが吊橋効果

「たぶん違います。というか早く出してください。お腹空きましたよ」

さっきから腹の虫が暴れ回っている。反抗期かな。僕もだいぶおかしな人間になってしまったようだ。

「ああ、もうそんな時間か。何か食べたいものはあるか?くだらない遊びに付き合ってくれたお礼に、腕によりをかけて作ってやろう」

「くだらない遊びっていう自覚はあったんですね。食べたいものカツ丼とかどうでしょう」

「カツ丼を渇望ってか?」

「今までで一番くだらないですよそれ」

「そこまで言うことないじゃないかー」

ぽかぽか殴られながら、母屋の方へと歩いていく。

美味しく頂きました。

 

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みんなの感想

ニックネーム:水野工犬(みずのこうた)

性別:男性

区分:高校生

感想:内容ははっきり言ってないのですが、日常系の作品として楽しめると思います。

ニックネーム:水野工犬(みずのこうた)

性別:男性

区分:高校生

感想:内容ははっきり言ってないのですが、日常系の作品として楽しめると思います。

ニックネーム:葵

性別:女性

区分:中学生

感想:あたたかい気持ちになりました。
ほのぼのとしていて好きです。