西暦3020年。世界は科学が発達し、科学技術なしでは生きれないようになっていた。
「こっちにいたぞ!」
強靭な男数人に追われる少女がいた。少女は走りながら、行き止まりになるとワープを繰り返しどうにか男たちから逃げていた。それに対して追手の男たちは大きな茶碗をひっくり返した様な鐘状火山の形をした乗り物を使い空から少女を捜索していた。
「ここなら︙︙」
少女は馬小屋にたどり着くと緊張が解けたのか、静かに眠りについた。
「︙︙ねえ起きて」
そんな声が聞こえ慌てて目を覚ますと目の前に男の顔があった。じっくり顔を確認した後少女は素早く走って逃げた。
男は距離を詰めることも離すこともなくぴったりと少女についていく。
「何者だこの変質者は︙︙」
静かに呟いた言葉にも男は反応する。
「変質者なんてひどいなぁ」
おちゃらけながら走る男に痺れをきらし、少女は曲がり角を曲がった瞬間にワープした。目を皿にして周囲を見渡すが、そこに男はいなかった。やっと逃げ切れたと思ったのも束の間、指名手配されていた少女は次は警備兵に追いかけ回されることになった。
次から次へと人が増えていき街のあちこちらに兵が導入され少女を探していた。周辺がどうなっているかわからないため、ワープは諦めて体力をたよりに安全地帯を探し歩くが普段は魔法をたよっていたためか、三十分も足を動かせばこむら返りを起こし限界に近づいていた。
「もお無理︙︙なんでこんなことに」
絶望に心が染まりつつあり、つい弱音を吐けば虚しく空気に溶けて消えると思いきや「なんでだろうね」と言葉と共に男が現れた。
「お前っ!!」
「やっと見つけたよ。魔女ちゃん」
「何者だ」
警戒心を剥き出しで男を睨みつける。
「さあね。でも敵ではないよ」
相変わらずおちゃらけて答える。ここを去る準備のように片足を下げた少女を逃がさないと言うかのように男は近づいてくる。じわじわと二人の距離は縮まり少女は杖をゆっくり抜いて呪文の前段階にもっていく。それでも男は怯まず、寧ろ読みが的中したかのように表情を柔らかくして駆け出し少女を抱きしめた。予想外の行動に固まるしかない少女は状況に置いてけぼりを感じていた。
「やっぱり一緒にいるね!」
「えっ︙︙」
反論しようとする少女を遮り話を続ける。
「ほんと嬉しい!やっと会えたね!あ、裏切りの契約でもする?あれって裏切られたと相手が感じたら死ぬんでしょ?怖いよね〜ま、僕は裏切らないけど」
少女はいつのまにか話が進んでいる状況に覆えすことを諦め言われた通りに裏切りの契約をかけ「問題はないし︙︙」と自分に言い訳をする。
「これからどうするの?そっか王城に行くんだね」
「なんでそんなところに︙︙!」
「えーだってそこに魔女ちゃんの目的のものがあるでしょ」
見透かされている気がした少女は反射で男から目を逸らす。
「魔女ちゃんはやめて。それに王城にあるとは限らない」
男に背を向けて歩き出したが、周辺に兵がいることを思い出して足を止めた。この状況を打開すべき策を考えて考え抜いて少女は自分と男の容姿を変化させた。
「僕も?」
「あなたの知り合いに会っても困るから」
相変わらず男の目を見ることなく作業を進めていく。
少し時間が経ち二人が変わったのを互いに確認すると裏路を抜け繁華街へくり出した。万が一のことがあった時、逃げやすくするためだったが、その必要がない程に姿は変わっていた。
「兄妹でお買い物かい微笑ましいね」
八百屋の前を通ればおばちゃんにそう言われるほど、二人の変身後の容姿は似ていた。
周囲に目を配らせながら宿に入ると受付へ進むが、少女は受付嬢を見ると宿から走って逃げ出した。
「どうしたの」
「あれロボットだった。私の正体がバレるかもしれなかった」
それを聞くと、男は少女に有無も言わさず腕を引き路地裏へ入り、“月宿”と書かれた建物のドアを開けるとさっさと受付をした。
「ここなら大丈夫だよ。ロボットはいないからね」
相変わらず目を合わせない少女に優しい声で話しかけると部屋を出て行ってしまい、少女は一人取り残された。
次にドアが開いたのは一時間後、男が食事を持ってきた時だった。湯気をたてる白米の匂いに誘われてふらりと男に近づき、食事を受け取る。今まで時間短縮のため味を求めず口に流し込んでいたため、味を感じる食事は久しぶりで温かさを感じていた。何もせず見つめてくる男の存在に居心地の悪さを感じつつも、気にしないようにと意識して食べ続ける。
人々が寝静まった頃に少女は一人淡い光の下で本を読みふけていた。
「何読んでるの?空、なにそれ」
「なぜ読める!?」
男は興味深々といった感じでずっと本を覗き込んでくる。それを阻止しようと少女は体の影に隠す。たしかに男が言うように本には空と書かれていた、ただしチェロキー語で。巧妙に隠されたそれは常人には別の文字に見えるはずで、言い当てた男に驚きを隠せなかった。
二人は王城に忍び込むことにした。丁度入城する商会の団体に紛れ込めば簡単に入り込むことができた。と思ったが、何故か兵に見つかり追い回されてしまう。やっとのことで二人がぎりぎり入れるかどうかなスペースを見つけ急いで入るとようやくお互いの顔を改めて見る。
「顔が戻ってる」
そう、入城した時に魔法は解け元に姿になったため追いかけ回されることになった。
慌てて何度もかけ直すがかかる気配がなく、諦めて近くにいた兵を襲い身包みを剥がし着替える。幸い仮面がついていたため顔が隠れ自由に城内を歩きまわれた。
不審に思われることなく書物庫にたどり着ければ早速魔法について書かれている本を探すが、あっても魔法は存在しないとだけ書いてあった。落胆した少女を男は手招きし、地下へと続く階段を見せた。
「見つけちゃった」
そう言うと軽い足取りで中へ進んでしまった。慌てて少女も追いかけて中へ入る。終着点は薄暗く、蝋燭が陽炎のように空間を照らしていた。棚に仕舞われる本を手に取ってみると魔力を感じ驚き本を落としてしまった。男は埃にまみれたその本を拾い上げるとパラパラとページをめくり中の文字に目を通すと「面白いよこれ」とページを開き少女に見せてきた。少女は顔を近づけよく内容を読むと目を見開き男を見上げると「やっぱり」と呟いた。そんな少女に気にもとめず興味は机の上に移っていた。本を少女に押し付け自分はさっさと机に行くとぶっきらぼうに置かれていた紙束を読み進めていくにつれて表情が消え淀んだ空気を纏い始めた。興味を惹かれ追いかけてきた少女に何枚か束から抜き出して渡すと、読むのを再開した。
「これは」
つい声が出てしまった少女の方へ顔を向けると頷いた。
そこで大勢の足音が聞こえた。だんだんと近づく足音に慌てて魔法で逃げようとするが、やはり発動しない。そんなことをやっていると既に兵は目の前におり囲まれていた。武器を持ち威嚇してくる様子に降伏を示して大人しく連行されていく。そこで少女は気づいた、男がいないことに。どうやって逃れたかは置いといて自分を置いて逃げた状況に少女は裏切られたのだと思った。連れられた牢獄でそんなことを思ったことを後悔した。「人殺しにはなりたくなかったな」と静かに呟き感情を殺した。
取り調べもなく連れられた少女は研究施設にいた。そこのは白衣を着た人たちと手枷を付けこき使われている二種類の人がいた。自分は後者だなと悟った少女の通りにそれからこき使われる日常が待っていた。
ここで過ごすようになってわかってきたのは二つ。こき使われているのは魔法使いで、何か新しい実験を始めようとしていたことだ。しかしそんなことを分かっても現実が変わることもなく死ぬまで使われることを覚悟し始めていた。
そんな時外光を受け付けない施設に光が入った。
「お待たせ魔女ちゃん」
倒れ込む少女の肩を寄せ囁く人物に動揺を隠せない少女。
「死んだはず、私が殺した」
「心の底では信じてくれていたんだね」
嬉しそうに微笑み返すと「準備は揃ってる」と呟き少女を抱え足早に何処かへ向かう。進めども兵がいない状況を不審に思いつつも急いでいたためか、気に留めず歩き続けた。ついた先には国の重鎮が集まっていた。突然の不審者の侵入にも関わらず兵が動く気配はない。機を得たと考えた男は放映球に近づき話始めた。その様子に慌ててようやく兵が動こうとしたのを王が制した。
「この国は多くの犠牲のもとで成り立っている。科学などなく全ては魔法使い達の力によって生活できていた。その魔法使い達は地下で囚われ力を搾取され続けている。証拠はこの書類だ。犠牲者を助け出そう!」
全て言い切り息を切らしている男の元に返ってきた言葉は希望をうちのめさせる。
「殺すわけではないんだろ」
「それがその人達の仕事なのよ。私たちもしているわ仕事」
「正直この快適な生活が消えるのはな」
どの言葉も今の生活に肯定的なものばかり。
予想通りと言わんばかりに王は声を上げる。
「反逆者を捕らえよ」
その声で微動だにせずに事の成り行きを見守っていた兵が一斉に二人へ飛びかかる。
救世主又は真実の代弁者になろうとしていた者は反逆者の烙印を押され落ちていった。その様子を見て一言「次へ移ろう」と発する王の執務室には“人類選別魔女化実験”と書かれた紙束が一際存在感を出していた。システムを肯定する民衆はこれから自分の身に起きることを何も知らず日常へ戻った。誰一人として想像できない未来から逃れる分岐点は知らずと逃れてしまった。
ニックネーム:ニャンコ
性別:女性
区分:小学生
感想:小説が好きで姉に勧められて読んで見ました。男が帰って来てびっくりしました。面白かったです。