過密な恋

三月四日、肩につくぐらいの髪の毛をなんとか後ろで束ねる憂と、頸あたりの髪がピンと立っている大成はLINEで交流を深めていた。人見知りの憂は高校に入ってからというもの男子と関わるのが極端に減り、一週間に一度話すかどうか程度だった。しかも憂が話す男子は二人のみと限定的であった。それに対し大成は友達が多く、男女関係なく話すような社交的な人物であった。そんな二人がなぜLINEで盛り上がることになったのか、それは二日前に遡る。

「社会の解答持ってる?」

そう聞いたのは憂である。実は憂の話す男子のうち一人は大成だった。

「持ってるよ」

憂が思った通り大成は持ってるのが当たり前かのように答えた。「貸して」と憂が言うが、この時春休みの前日であり後日返すことができないため、大成が「写真で送る」と伝える。話すことはあってもお互いのLINEアカウントを持ってなかった二人がSNS上で繋がった瞬間である。

写真を受け取ると終了すると思ってたLINEは大成が話題をふったことにより二日経った今でも会話し続けている。他の友人と話すときは聞き手に回る二人だが、二人で話すときは交互にお互いの話をする。誰にも言ったことのない話をする瞬間の信頼感に二人は溺れた。

『今大丈夫?』

『大丈夫だよ〜どうしたの?』

すぐに既読はつくが待てどもこない返信に変なこと言ったかと憂は不安をおぼえた。待つこと数分やっときた返信には『話したいことがあるから電話したい』とのみ書いてあった。憂が私から電話した方がいいのか悩む間にチロンと『大成から不在着信がありました』とLINEに通知がくる。慌ててかけ直す憂。

「ごめん。通知こなかった!」

「大丈夫だよ」

その後流れる沈黙に耐えきれず憂が切り出す。

「話したいことってなに?」

実はさ、憂のことが好きなんだ」

思いがけない告白に動揺が隠せない憂は勢い余って何も考えず「私も好き」と口走る。

「ほんとに?嬉しい。それでさ、付き合って欲しい」

時間が経っても返信がない様子に大成は振られたんだと考え「ごめん変なこと言った」と付け足した。そうすると電話口から「ごめん驚いたの。私付き合いたい」と憂の声がした。

それから、二人は勉強会と称して電話を毎日するようになった。真面目に勉強をする日もあったがもっぱら雑談で時間は過ぎてゆく。そんな日常に心の底で満たされていた憂であったが、休みがオンライン授業通常授業と移り変わるうちに減っていく電話の数に寂しさを覚え始めた。そんな自分を客観的に見て、メンヘラのようだと感じ始め、イチャイチャではなくサバサバ系の付き合い方をしたかった憂はそんな自分に嫌気を感じる。自分の感情だけでなく、大成から『憂ってメンヘラにならなそうだよね』と言われた言葉で憂は自分を押さえ込む。

続ければ続けるほど自分の本音がわからなくなる憂はついに我慢を爆発させた。

『今日女の子と話してたよね』

『香味さんのこと?話しやすい人だよ』

『そうなんだ』

『もうその子と話さないで』

送信してから慌てて送信取り消しを押す。大成は友達が多い。男の子だけでなく女の子も然り。だから一人に対して言っても仕方ないし、大成の友人関係を壊す気はない。そう思ってるはずなのに心のどこかで大成を独り占めしたいと思う自分に憂は嫌気がさす。少し距離を置こうとLINEを挨拶のみにして数日過ごすことにした。大成への思いは抑えられることなくむしろ膨れ上がってしまっていた。連日恋愛のことをインターネットで検索しては自分たちのことに当てはめるそんな日常が続いていた。そんな中、“男子は束縛されたい“と書かれている記事を見つけた。“束縛“その単語を見た瞬間憂は自分を抑えていたものが弾ける感覚に陥り後先考えず大成に電話をかけた。

「今週の日曜日デートしよ」

「え、ああいいよ」

承諾を受けた憂は嬉しさのあまり何度もガッツポーズをする。ある程度興奮が収まるとすぐさま女子力の高い友達に電話した。

デート当日、友達と親と共に考え抜いたファッションで万全な準備をして集合場所に向かう。見上げれば淡青色の下地に卯の花色で水族館の文字に、小さく模られた魚介類が飾られている看板が目につく。大成はスマホをいじりながら憂の到着を待っていた。

「お待たせ」

そう言いながら登場した憂に顔を向ける大成。二人はぎこちなくとも仲良く水族館の中に入っていく。始めは初々しく話す二人であったが、時間が経つにつれていつも通りに接するようになった。それに伴う形で大成が他の女の子に目を向けると袖を引っ張るかたちで憂の独占欲が顔を出し始めた。最初の数回は「たまたま視界に入っただけだよ」と毎回言っていた大成も回数を重ねていくうちに弁解するのをやめた。水族館を一周しランチを食べ終わると無言の時間が訪れ、憂は大成の顔を見ては頬を染めて視線を逸らすの繰り返しで大成は疲れからか肩を落としぐったりしていた。時計を見れば午後三時。今帰れば家に着くのは午後五時だろうか。翌日のことを考えて二人は帰宅することを決めた。

それから二週間後、大成は着信音を発するスマホ画面を見てため息をついていた。

「もしもし」

意を決してでた電話の向こうからは憂の声がする。実はデートの翌日から毎日憂から電話のマシンガンを受けていた大成は小一時間憂の電話につきあっていた。今日こそは指摘しようと身構えていた大成はついにタイミングを見つけて言った。

「毎日長時間電話するのきつい」

それに対しての憂の返答は「ごめん」「面倒だよね」を繰り返すのみで永遠に続く謝罪と「でも話したいの」といった要望ににうんざりした大成は妥協案として一日三十分のみ電話する方向へもっていった。憂はなんだかんだ言って自身の要望を聞いてくれる大成に愛されている実感を湧かせた。

毎日電話をすることを承諾した大成に次待ち受けるのは毎週末のデートだった。金曜日にくる誘いに幾度も断ろうとした大成だったが、毎度のデートで楽しそうにしている憂を見てるとやはり愛しく感じデートの誘いにのってしまう。仕方がないのでデート先のネタ切れや憂が飽きるのを待つことにした。しかし一向に週末のデートをやめる気配がなく、デート分毎日増える勉強時間に疲労を感じつつデートに付き合う大成を他所に憂は心身共に充実していた。

そんな日常が続くと学校での生活にも支障をきたすようになっていた。毎日くる憂からのLINEの内容は『誰と話したか』といったもので、女子と話したことを伝えられると憂はヒステリックを起こした。それだけにとどまらず休み時間には大成の教室へ行き、昼食は大成と取りたがった。その様子に周りも気付き学校公認カップル化していた。

半ば諦め状態となった大成が憂の傀儡となり、憂が望むことこそ自分がしなければならないことと思い始めた頃大成はふと自分の身体の所々に怪我があることに気づいた。

「俺いつのまに怪我してたんだ」

そう呟いた大成に呟きを聞き取った憂は何食わない顔で

「それね、血を抜くために注射器使ったんだけど難しくて」

と言う。思わず「え?血!?」と大成は叫んでしまった。状況が整理できていない大成をよそに、憂は「二人の血で作ったんだ」と徐にネックレスを胸元から取り出し見せびらかす。より戸惑う大成に憂は「大成のも作ったよ」と追い討ちをかける。思考が正常に戻った大成は身の危険を感じ

「またね!」

と憂にお別れを告げると一目散に駅に向かって駆ける。憂がボソッと呟いた「骨でも作りたい」なんて言葉を聞かなかったことにして。

それから数日学校に行かなかった大成は飛行機の中にいた。元々海外に転勤予定だった親について行き難を逃れろうと考えたのだ。

現地に着くとベンチで一息つき、今までのことを思い返し

「まるでラブコメだったな」

と呟く大成の後ろの柱には憎悪と深い愛情を込めた瞳で大成を見つめ、首元には赤黒い小瓶のチャームを揺らす少女がいた。

「死ぬまで私たちは一緒」

 

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