ミネラルウォーターみたいな、

暑い、すごく暑い。どうして休みの日に球技大会の打ち合わせになんて行かなければならないのだろう。

 それは俺が実行委員長だからだ。やりたくてやっているわけではない実行委員だけど、俺の仕事で笑顔になってくれる人がいればいい。そうじゃなきゃ、この暑い中打ち合わせたのが無駄になってしまう。

「よし、そろそろ始めるか。それじゃ、第一回実行委員会を始めます。今日決めるのは種目とルール、仕事の分担です。よろしくお願いします」

 それぞれ「よろしく」とか「おー」とかバラバラに返事をする。

 なんか、先行き不安だな。

 

 結局、種目は去年と同じバスケットボールになった。ルールも去年と同じ。

 一体今日は何のために集まったのだろうか。

「今日の実行委員会はこれで終わりです。次回は球技大会前日の放課後に行います。じゃあ、解散」

 皆そそくさと帰って行く。まあそうだよな。昨日テストが終わったばかりなんだし。早く帰ってだらけたいに決まってる。俺だってそうだ。だから、わざわざ勉強しに来ているこいつのことを少し尊敬してしまう。

「喜べ甲斐。球技大会、今年もバスケやることになったぞ」

「ふーん。べつにおれには関係ないし」

「何言ってるんだよ。もちろんお前も出るだろ?」

「出ないけど」

 はい嘘。超・出たいって顔が語ってる。あとは俺が背中を押してやれば絶対出るって言いだす。

「お前いなきゃ勝てないじゃん。ちょっとだけ、な?」

まあ、他に出る人がいないならいいけど」

 いるわけねーだろ。現に誰一人出たいって言ってきてる奴いねーもん。

「で、甲斐。お前平野さんとのことどうすんの」

「どうするって。どうもしないけど」

 はい、これも嘘。目が泳いでる。絶対お前どうかするつもりだろ。いや、実はもう、どうかしてるのか?

「ぼやぼやしてると俺がとっちまうぞ」

 俺のこの言葉、実は本気だったりする。友達の好きな人を好きになるなんて、まあベタな展開だなと思うけど、好きになってしまったものは仕方がない。平野さんはきっと甲斐のことが好きで、つまり俺は叶わぬ恋をしているということになるのだろうけど。

「なあ。もし俺が平野さんのこと好きだって言ったら、どうする?」

べつに、どうもしないけど」

 また嘘。こいつのことだから行動に出たりはしないかもしれないけど、心の中では負の感情を抱くに違いない。そうならないように俺が身を引くべきなのか、それともヘンに遠慮なんてするべきじゃないのか、俺にはまったくわからない。ただ一つわかるのは、こうやって口に出す度、好きだって気持ちが強くなっていくってことだ。

「球技大会で勝ったら告白するってのはどうよ」

 そう提案してみたら、なんだか微妙な顔で見られた。

なんでだよ。いいじゃんか、自分の中で引き金作っておくの。ていうか、いい加減告れよ。それで俺が諦められるようにしてくれ。

「あのさ、言おうとは思ってたんだけど」

「あ? なんだよ急に。告白の予行練習か?」

「茶化すなって。おれ、実は」

何だ。こいつは何が言いたい。マジで予行練習とかじゃないよな?

もう平野さんに告ったんだよね」

 今度ばかりは、嘘だろ、と言いそうになった。

「いや、お前、いつの間に」

「去年の文化祭で」

「そりゃまたなんで」

ノリ?」

ふざけるな。何が「ノリ?」だ。そんな衝動的なのじゃ平野さんが可哀そうだろ。もうちょっとロマンティックで一生の思い出になるような告白を演出しろよ。

「それで、平野さんはなんて」

「なにも。なかったことにされたのかもしれない」

なんだそりゃ。諦めるに諦められないだろうが。やめろよ、そういうの。中途半端に期待させるな。

「だから、伊上くんが平野さんのこと好きだからおれがどうするとか、べつにないから」

「嘘つけ。あるだろ」

 俺の強い口調に驚いたのか、もう一度「ない」と言うこともできない様子だ。

「本当は、俺なんかにとられたくないって思ってるんだろう。そりゃそうだよな。俺とお前じゃ年季が違うっていうかなんていうか。だってお前一年生の頃から好きだったんだろ? なんで今更諦めようとしてるんだよ。このまま卒業するのは嫌だって言ったのはどこのどいつだよお前だろうが。俺はびっくりしたよ。ああ、びっくりしたさ。いつもは『べつに』で逃げ出すやつが自分から動いたんだから。なんでそこまでしておいて俺に譲ろうなんて思えるんだよ。俺がお前の友達だから? 今になって平野さんから返事聞くのが怖いから? ふざけんなよ。お前本気だったんじゃないのかよ」

「ちょっと落ち着いてよ、伊上くん」

 これが落ち着いていられるかっての。

「落ち着けねーよ。だって俺、お前のこと応援してたんだから。もちろん、平野さんのこと好きだっていうのは嘘じゃない。嘘じゃないけど、そこまで本気でもない。なんかいいな、くらいの。って、何言ってるんだろうな。俺のことはまあいいとして。お前、返事聞かなくていいの?」

 誰に、とは言わなかった。

そりゃ、聞きたいけど」

「じゃあ聞いて来いよ。俺のことなんて気にせずに、平野さんにちゃんと聞いて来いよ。なんだったらもう一回告っとけ」

 あーあ、俺何言ってるんだろうな。馬鹿じゃねえの。

「じゃあ、球技大会で勝ったら」

「球技大会が終わったらにしておけ」

 こうでもしないと、こいつはまた逃げ出すかもしれない。

 結局、俺はこいつの背中をおす係なんだ。迷ってるときとか、なんか困ってるときとか、そういうときに背中をポンと押してやる係なんだ。俺は意外とこの係を気に入ってたりする。

 まあ、親友ですから。

「あー、なんか喉乾いた。甲斐、ジュース奢って」

「は? やだよ」

 仕方ないから甲斐くんには俺の失恋パーティに付き合ってもらうことにしますか。参加者は二人。場所はそうだな、駅のベンチとかどうだろう。夏だから暑いだろうけど、たまには汗だくになってこいつと話すのも悪くない。

 

 

 

 

※ここからは、男子高校生三人が色々だべってるだけの話です。一応登場人物の説明をしておくと、私のある作品でちょっとだけ活躍した人たちです(そのうちの一人は本編では主役でしたが)。

実はこういうの書きたかったので書きました。わからなかったら、過去の部誌を漁ってください。

 

 

小田「どうも小田です。すみませんがもう少しお付き合いください」

伊上「どうも伊上です。たまにはね、俺ら三人が話すだけってのもアリかなって」

広中「オレら出番少ないからな。あ、自己紹介忘れてた。広中です」

小田「とくに俺と広中。ほぼ出てこないじゃん」

広中「なー。伊上だけずるいよな。伊上主人公の話とかあるらしいぜ」

小田「今回の話とかな。文化祭で主役とか、この扱いの差はなんだ」

広中「そういや、伊上と小田で出掛ける話なかった?(※七月発行号 「サファイアブルーに溺れる前に」)」

小田「あの伊上がかっこいいやつな。俺は引き立て役だし」

伊上「小田! 広中! 二人で結託するなよ。俺だって所詮は甲斐の引き立て役だぞ。モブキャラだぞ」

小田「まあ皆そうなんだけどな。でも冷静に考えるとモブのわりに俺ら登場するよな」

広中「あと、キャラが濃い」

伊上「作者いわく、『モブだしいいでしょ』らしい」

広中「うわーなんだそりゃ。雑だな」

伊上「でもこの作者、意外と真面目に設定資料書いたり書かなかったり」

小田「どうせ、名前と年齢だけの雑なやつだろ」

伊上「実は、それがここに」

広中「早く見せろよ!」

小田「せっかくだし、これ晒そうぜ」

伊上「それ賛成。えーっと、まずは小田な」

小田「なんか緊張するんだけど」

伊上「小田翠。バスケ部。三人のまとめ役。大学生の姉がいる」

広中「え、お前まとめ役だったの?」

伊上「全然そんな感じしないけどなー」

小田「お前らひどいな。俺だって、俺だってなあ、出番さえあればちゃんとやったさ」

伊上「あー次行こう。広中な」

広中「おっ。どんな設定なんだろうな」

伊上「広中。サッカー部。いつも意味不明な言葉で周囲を混乱させるが、たまにとんでもなく良いことを言う」

小田「ほー。ま、その通りだな」

伊上「だなー。広中に関しては作中でもキャラが再現できている、ということか」

広中「お前らさ」

小田・伊上「「なんだ」」

広中「苗字しか決められてないのにつっこめよ」

小田「あ、わりい。まあモブだし」

伊上「モブだし」

広中「小田はちゃんと名前あったじゃないか」

小田「まあまあ。次行こうぜ」

伊上「あ、俺か」

小田「絶対気合入った設定だよな」

広中「なー」

伊上「えーっと。伊上涼介。運動部。甲斐とは一番親しい。広中の通訳も担当している」

小田「運動部って」

広中「そんな部活あったっけ? なにするの?」

小田「運動だろ。走ったり蹴ったり投げたり?」

広中「なるほど、すべてを集約した部活か」

伊上「ねーわ、そんなもん! 作者の手抜きだって。考えるのが面倒になったんだよ」

広中「ありえる」

小田「俺が気になったのは通訳担当ってとこだなー」

広中「本編では一切でてこないもんな、そんな要素」

小田「広中の言うことがなんでか伝わっちゃってるんだもんな」

伊上「ところでさ、俺の設定のとこで『隣のクラスの女子に片想いしている』っていうのに二重で線ひかれてるんだけど」

広中「片想い取り消しって」

小田「まあいいんじゃね? だって今回の話で平野さんに恋してたし?」

伊上「別にいいんだけどな。ところでさ。甲斐の設定、気にならない?」

小田・広中「「気になるにきまってるだろ」」

伊上「それもあるんだよなー」

小田「晒せ晒せ」

伊上「おう。甲斐冬夜。整った顔をしている。身長は一七五cm。済んだ瞳の持ち主。インドア派。得意科目は物理。好きなスポーツはバスケットボール。全体的に細い。人見知り。左利き。普段はクールなのにたまに甘くなる。猫みたい。将来の夢は一流企業に勤めること」

広中「長いわ!」

伊上「まあ作者の好みを寄せ集めた結果出来上がったキャラだからな」

小田「ちなみに今の設定でどのくらいが作者の好みの要素?」

伊上「八割だそうだ」

小田「残り二割が気になるんだけれども

伊上「書いてたらいつの間にか、だそうだ」

小田「やっぱテキトーだな、この作者」

伊上「まあ、好きは変わっていくものだからな」

広中「伊上お前、かっこつけんなよ。またお前だけ出番増えるだろ」

伊上「しょうがないじゃん。俺、甲斐の親友なんだもん」

広中「親友ってだけでそんなに出てくるか?」

小田「風の噂だけど、モブ三人のうちで作者が一番気に入ってるのが伊上らしい」

広中「なんで」

小田「爽やかだからとかなんとか」

広中「オレらが爽やかじゃないみたいじゃん」

小田「伊上ファンがいるとかいないとか」

広中「それはずるい。オレにもファンくらい寄こせ」

小田「いるわけないだろ。登場してないんだから」

伊上「落ち着けよ二人とも」

広中「でもさあ」

小田「ん? いよいよくるか。広中の意味不明な発言と伊上の通訳」

広中「違うって。オレ気になったんだけど」

伊上「おう。どうした」

広中「甲斐の設定細かすぎない? まるで現実にモデルがいるみたいな」

小田「よく作者が質問されてるやつな」

伊上「作者は頑なに否定しているが」

小田「嘘だな。絶対いる。なんなら『平野さん』のモデルが作者、とか。そんで気になるあの人と私のラヴストーリー、みたいな」

伊上「それだけはない、とのコメントが」

広中「まあ、作者とは似ても似つかないしな、平野さんは」

小田「作者と違って可愛いし」

広中「作者と違って優しいし」

小田「作者と違って親しみやすいし」

広中「作者と違って成績良好だし」

小田「作者と違って上品だし」

広中「作者と違ってコミュニケーション能力あるし」

伊上「お前ら、深刻な作者イジメはやめろよ」

小田「逆に共通点見つからないんだけど」

伊上「いや、意外とあるんだな、これが」

広中「確かに」

小田「例えば?」

伊上「背が低い」

広中「運動が苦手」

伊上「読書が好き」

広中「静か」

伊上「文芸部」

小田「実は、平野さん漫画研究部って設定だったらしいぞ」

広中「なぜそれが文芸部に」

小田「訂正し忘れだそうだ」

伊上「どこまでもアホだな、あの作者」

広中「というわけで、以上『平野さん≠作者』の証明でした」

小田「なにも示されていない気が」

伊上「いやー。なんだかんだで、もう作者も卒業ですよ」

小田「それじゃ、俺らは出番がないままさようなら、か」

伊上「まあ卒業してからも書くかもしれないし」

広中「このシリーズみたいなの書き始めたのが高二の夏だったっけ」

小田「そうそう。当初は、作中作の一つって扱いだったんだよな」

伊上「でも平野さんと甲斐を書きたいって気持ちが作者にあったらしく」

広中「文化祭号でも書くという」

伊上「それからはキャラを考えるのが面倒なのかずっとこれで乗り切ってるよな」

小田「たまに伊上主人公にして逃げたり、とかな」

広中「俺も驚いてる。よりによって三年間で最後の部誌で伊上主役だろ?」

小田「そこは甲斐を書けよ」

伊上「まあ、甲斐も出てくるし」

広中「しかも、七月発行号から時間戻ってるんだよなあ」

小田「九月末の発行なのに真夏の話だし」

伊上「書いてるのが八月だからな」

小田「でも無事に終わってよかったじゃないか」

広中「これで悔いなくお別れできるな」

伊上「実は『高三の文化祭編』が書きあがってるとかなんとか」

小田「どうしてそれを載せようとしなかったんだろうな」

伊上「『なんか甲斐くんがかっこよすぎるから直したいんだけど、それに比べたら伊上くん書くほうが楽だわ』らしい」

広中「かっこよすぎたらダメなんだ

伊上「ちょっと残念なとこも含めて甲斐冬夜だからな」

広中「いやー、作者の愛が重い」

伊上「さてさて、もうそろそろ終わるんで何か一言ずつ」

広中「出番が欲しい」

小田「俺主人公の話も待ってる」

伊上「うーん俺は」

広中「なんだ?」

伊上「甲斐と平野さんが幸せになってくれたらいい、かな」

小田「最後の最後でイケメン発言やめろ」

 

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