ピピピピッ。ピッ。
目覚まし時計の音がなってわたしは目を覚ました。
布団か出て顔を洗い、パンをくわえる。いつもと変わらないバターパンの味。わたしは中のバターを溶かさない派である。一袋全て食べて、水を一口。あと、サラダと目玉焼きを作って食べる。健康には気を使わないといけない。
歯磨きをしてスーツに着替え、髪を整える。そして、カバンを持って外に出た。
わたしは映画館の支配人である。
朝一番に劇場にやってきてシアターを掃除する。それがわたしの使命だ。掃除道具を突っ込んだバケツを持ってシアターを回っていく。
シアターは昨日お客様がいた場所。シート一つ一つ丁寧に。ドリンクホルダーや肘掛も磨いていく。
全てのシアターを掃除し終わったところで従業員がやってきた。
「おはよっす、支配人。やっぱり早いねー。また掃除?」
「ああ、渡辺さん。おはようございます。他の方たちはもうきてるのかな?」
「まだだけど︙︙。そのうちくるんじゃないかな?」
「そっか。今日も頑張ろうね」
「りょーかいっす」
渡辺さんはやる気がないように見えるけれどわたしの次にやってくる実は優しい女の子だ。一年前から共に働いている、十七歳。
この映画館では、最新の映画から個人が製作した映画まで、いろいろな種類の映画を扱っている。
毎日いろいろな新作映画がやってくるので映画が大好きなわたしにとってはたまらない場所だ。
ポップコーンの匂いにつられてわたしはホールにやってきた。
「あ! 支配人! おはようございます! 今日も朝早くからお疲れ様です!」
「おはようございます。田中くん。今日のおすすめポップコーンは何味かな?」
「今日はですね。なんと! アボカド味ですよ!」
「ありがとう。うん。美味しいね」
「やったー! ありがとうございます、支配人!」
田中さんは二十三歳の男性だ。屈託のない笑顔と持ち前の明るさでフードエリアのムードメーカーでもある。あと、彼は毎日作るオリジナルのポップコーンを作ってくれる。
「うげ。支配人よくそんな不味そうなポップコーン美味しいって言えるよなー」
「ぼくのポップコーンにはファンがいるんだよ、加藤ちゃん」
「ほんとかよ。あと、味よりもアボカドって食感を楽しむ食べ物なんじゃねーの? ポップコーンにしたらアボカドの良さがなくなっちまうんじゃ︙︙」
そう言いながら加藤さんはチケットブースに行ってフライヤーを並べ始めた。
加藤さんは二十代の女性である。今働いてくれているメンバーの中で一番歴が長い。切れ長の目が特徴の美女なのだが、それをいうと彼女は怒る。怒るというかキレる。普段は乱暴な言葉遣いだが、働き始めると人一倍丁寧な接客をしてくれるためお客様からの評判もいい。
「あれ? 高橋さんもうグッズ売り場入ってるの?」
「支配人!!」
高橋さんがギュンとわたしの目の前に瞬間移動のようにやってきた。わたしの顔を見つめる。
「そんなに見つめられると照れるんだけどなぁ」
「支配人、映写班がまた私物倉庫に持ち込んでます」
「今度は何持ってきてるの?」
「段ボールです。しかもたくさん」
「うーん。二人に会ったら何に使うか聞いとくから。その段ボールどうするかはその後にしよう。ね、高橋さん」
「わかりました」
高橋さんは不満そうな顔をしたがどうにかこらえてくれたようだ。
高橋さんは二十代くらいの女性で、二年前からうちで働いてくれているとても正義感が強い子である。メガネとポニーテールがよく似合っている。
「あれ? 鈴木くんがいないような。あと吉田さんと小林くん、山田さんは?」
「今から来ますよ。多分」
高橋さんが言う。
渡辺さん、田中くん、加藤さん、高橋さんの他にも映写機担当の吉田さんとその弟子の小林くん、主婦の山田さん。それと。
「あれ? 鈴木くんは?」
「また先にシアターに行ってるんじゃない?」
すると、鈴木くん以外全員集まった。
「鈴木くんだものね。よしっ、ミーティング始めよう。今日は予定では4人ほどいらっしゃっることになっています。みんな、今日も最高のサービスを提供するように。よろしくね」
この映画館では、最新の映画から個人が製作した映画まで、いろいろな種類の映画を扱っている。
場所はあの世とこの世の間。お客様のほとんどは天国の住人。天国の住人は、この世の最新の映画が見たくてやってくる。しかし、毎日、数名から数十名ほど人間のお客様もやってくる。この世からタクシーに乗ってやってくる。走馬灯という名の“自己制作映画”、『人生』が今日も上映中である。
ここは通称『人生劇場』。
そして、従業員は全員“元”地獄の亡者である。
皆様のお越しをスタッフ一同、首を長くしてお待ちしております。
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