人の想いは呪縛となりて

「透!こっちの祭具持ってけ」

「宮様、奉納の舞の練習を

「あ〜〜〜〜〜〜もう!うるせぇよ!俺はやる気ねぇって言ってんだろ!!」

伊勢透。それが俺の名前。いかにもって感じで俺は嫌い。

冒頭の会話から察せる人は少なそうだけど一応神主。になる予定。でもそんな古臭いのやってらんないだろ?昔とはちげーんだよ。今は誰もが何かしらの能力を扱える。勿論強弱はあるけど。そんな世の中なら誰だって神社から逃げ出すわ。

そもそも神道を信仰してる奴なんてごくわずかだろ。俺はみんなと一緒に遊びてーし普通の人生歩みたいんだよ。俺にとってこの家柄は邪魔でしかないわけ。マジでやめてぇ。

「若様!駄目ではないですか、練習をサボるなんて」

「やりたくねーんだよ。いちいち鬱陶しいな、どっか行けよ」

「ですが

「うるせぇって。お前俺の召使いなら空気読めよ、ばーか」

目の前にいるコイツは俺の召使い。名前は忘れた。興味無い。取り敢えずいちいちうるさい奴。

親は親で俺への引き継ぎがどうとか言ってるし、コイツはコイツで注意してばっか。俺の周りに味方なんて居ない。こんなにめんどくさい家系なのに厄介なのが俺の能力。俺は過去視が出来る。その場所に起こったこと、その人の過去とかが視える。ある程度強力なこの能力のせいで昔から『本物の神子だ』なんて担ぎ上げられている。最初こそ優越感があったが今では全く。利用しようとする輩なんて五万といる。そんな奴らの相手を年がら年中してたらうんざりするのも分かるだろう。

「透、今日の舞の練習は無くすから祭具を運んでちょうだい」

そうこうしていると母親がやって来た。さっき担ぎ上げられている、なんて言ったが親も例外じゃない。クソがつくほど甘い。だから少し粘れば舞の練習なんて無くなる。こういう面ではいいのかもしれない。

「分かったよ」

そう言って神社に戻る。無駄に広い境内を歩くのですら億劫だ。

"なぜ祭具を俺が持っていくのか”

答えは簡単。"ある程度強力な能力”がないと動かせないからだ。なぜかは知らない。とにかく作った奴は相当イカれてんな。

ひたすら無心で歩いて気付けば蔵の目の前まで来ていた。

(そういえば祭具の中身、見たことないな)

ふとそんな事を思う。祭具に過去視は通用しない。この世で過去視が通用しないものは多分あれだけだと思う。だから誰がどんな意図でこれを作ったのかよく分からない。

開けてみてもいいよな」

だって気になるし。祭具を見つけ手に取る。むしろ今まで開けようと思わなかったことが不思議だ。蓋に手を掛け一気に持ち上げる。

あたりには煙が充満した。

******

「げっっほ!!うぇこの煙なんか不味い」

煙に美味いも不味いもあるかという話だが。痛む頭を押さえつつ辺りを見回す。

そこには

ロボットらしきものが大量にいた。

「は??え?どこ此処。状況把握が出来ねぇ」

目を閉じて開く。所謂まばたきだが何回繰り返しても目の前の光景は変わらなかった。しょうがない。これは現実。認めざるを得ない。そしてさっきから視線を感じる。ものすごく。横目で周囲を見回すと子どもの形をしたロボット(?)達がじっと俺を見つめていた。

あの」

「わァ、喋っタ!すごイ!」

「凄いって普通だろ?」

「エ?ぼくは初めて見たヨ。生身のにんげン」

「俺モ!!」

「初めて見た?冗談だろ?」

「ほんとだヨ」

どういうことだ?いくら外見がロボットでもこいつらは紛れもなく人間のはず。それなのに初めて見た?

「いや、お前らも人間だろ?」

「僕たちハ産まれたらすぐにロボットに移植されるかラ」

「ロボットに移植!?」

「今ジャ常識だヨ」

「聞いたことねぇ常識

此処は俺が生きてた時間軸じゃない。少なくとも人間をロボットに移植するなんて常識、あるわけなかった。僕からすれば異常だ。たとえこいつらにとって常識だとしても。

「はぁあんな家でもいいからさっさと帰りてぇ」

「俺、さっきからこの人ガ何を言いたいか分からないんだけド」

「僕モ。この人今日授業でやった人達みたイ」

「あア。チェロキーってやツ?」

「それそレ!」

「チェロキーってそんなにわけ分からないか?」

「分かんなイ!」

「でモ、神皇様なら分かるかもネ」

「確かニ!」

「神皇様?」

誰だそれ。天皇の別名か?未来になると呼び名まで変わるのか

「天皇に会うしかねーのかよ

「エ?天皇なんテとっくの昔に無くなったヨ?」

「は?神皇って天皇の別名じゃないのか?」

「違う違ウ!天皇よリもっとずっと偉いのガ神皇さマ!」

「確カ千年くらい前だよネ、臨来神皇様が現れたのっテ」

「千年前臨来

此処は千年後の時間軸。

そして千年前、俺が生きていた頃に臨来という名前のヤツが身近にいた。

何となく流れが分かった気がする。

あとは確かめるだけだ。

俺用事思い出した」

「そっカ。殺されないようニ気をつけてネ」

「殺されるって物騒だな」

「生身の人間ハ恰好の餌だかラ」

「あっそ」

「じゃーネー!生身の人間さーーン!」

「呼ばれ様よ

ロボットの姿をした子ども達に別れを告げて目についた神社の方へ歩く。俺の過去視で時を遡って歴史全体を見るには神社でないと駄目だ。霊力が足りなくなる。

一応周囲を警戒しつつも無事に神社に着いた。

深呼吸して目を閉じる。

_______教え給え、この地の歴史を。

******

「神皇様、面会したいという変質者が来ていますがいかがなさいますか」

「あはは!身の程知らずだねぇ。いいよ、通して」

仰せのままに」

しばらくすると久方ぶりに見る顔が部屋に入ってきた。此処に来るまでに殴られでもしたのかところどころ腫れていたり、血がついたりしていた。

やっぱりお前か」

「お久しぶりです、若様。随分と調子が良い様で」

「ふざけてるのか」

いいね、怒ってる怒ってる。まぁ、この子はなんだかんだ言って正義感が強いから、この国の歴史を知って怒るのは予想出来るけど。

「いえいえ、ふざけてなど御座いません」

「お前が何をして此処にいるのか分かってんだろうな?」

「ええ。勿論ですとも」

っ、そのふざけた喋り方をやめろ!俺の一族を皆殺しにしやがって!!」

「さすがは過去視の使い手、お見それしましたとは言わない方が宜しいですか?」

「殺すぞ臨来」

間髪いれずに突っ込んでくるのは変わらないな、コイツは。

相当頭にきているらしい。感情の制御が効かずに過去視自体が暴走している。能力使用時の象徴である蒼い眼が鋭く光っているのがその証拠だ。

「やってみるといいよ、キミでは僕に勝てないけどね」

「黙れ!!」

お互いそのまま突っ込みながら攻撃用の能力を行使する。うんうん、いい動き。過去視使いながらって割と凄いよねぇ。

でもね、

所詮人間は文明に勝てないんだよ。

僕の眼が紅く光る。

コイツは忘れているかもしれないけど僕の能力だって強力だ。しかもコイツと僕の能力は

過去視と未来視。

対の能力であるが故の相性の悪さ。そして有利なのは勿論、先を見通せて尚且つ体力の限界が無い僕。

「ふざけんな!此処で死んで償え!!」

「ちょっと無理かなぁ。だって死ぬのはキミだし」

そして僕の能力を未来視から切り替える。この能力は今からちょうど千年前に行使できる様になった。

千年前。

この『使役』という能力はあの祭具に封印されていた。

あの日コイツが祭具を開けたことで能力の情報を持った煙が放たれた。あの祭具は僕の先祖が作ったもの。その能力は強力すぎるためにわざわざ封印され、伊勢の一族にしか開けられない様にした。その時から主従関係だったらしいしね。

そんなこととはつゆ知らずあの祭具の蓋をコイツが開けた時点で勝負はついていた。

「さぁ、僕に使役されて粉骨砕身働いてねぇ!」

____能力を行使した時の若様の顔が頭に焼きついた。

******

「この辺りの地区、荒れてるなぁね、行ってきてよ透」

「仰せのままニ、ご主人さマ」

 

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